1月20、22日、車いすラグビーのクラブチーム日本一決定戦「第24回車いすラグビー日本選手権大会」が、千葉ポートアリーナ(千葉市)で開催された。車いすラグビーの日本選手権は新型コロナの影響により2大会連続で開催が見送られ、3年ぶりに本大会が行われるとあって、会場は程よい緊張感と期待感に包まれた。
3年分の思いを胸に、予選大会を勝ち抜いた8チームが熱戦を繰り広げ、大会は日本代表キャプテンの池透暢が選手兼ヘッドコーチ(HC)を務めるフリーダム(高知)の初優勝で幕を下ろした。
今大会には日本代表として活躍する選手のほか、カナダ代表の絶対的エースで東京パラリンピックにも出場したザチャリー・マデルが2019年大会に続き沖縄ハリケーンズ(沖縄)の一員として参戦し、国際マッチさながらの迫力ある試合を演出した。また、史上最多4名の女性選手が出場し、ライズ千葉(千葉)戦では、1チーム・コート上4名のプレーヤーのうち2名が女性選手(月村珠実・上原優奈)というラインナップも登場した。
さらに、この3年間で新たに競技を始めた若い選手が多く出場したことも大きな特徴だ。本大会出場の8チーム中7チームに、競技歴が1~2年という新人選手が所属しており、なかでも、奥原悠介(沖縄ハリケーンズ)、青木颯志(アックス)、大峯充生(ライズ千葉)は高校生、そして横内太陽(シルバーバックス)は中学生と、10代のプレーヤーたちが躍動したことは、日本の車いすラグビー界にとって明るいニュースとなった。
今大会で悲願の初優勝を果たしたフリーダムは、予選大会を含め今シーズンの公式戦で負けなしの全勝でチャンピオンに輝いた。池の絶対的な存在感はもちろんのこと、池のもとで教わりたい、自分を高めたいと昨年度フリーダムに移籍したハイポインター・白川楓也の存在もチーム力を大きく引き上げた。白川の加入によりラインナップとプレーの幅が広がり、特に、池のロングパスからの白川のランで奪うトライは今後も大きな武器となるだろう。
優勝会見で池は、白川の移籍について「一人の熱い思いを、チームで支えられるのはすばらしいこと。それを見て、ベテラン選手も応援しよう、がんばろうとなるので、チームに良い相乗効果を生んだ」と誇らしげに語り、これを受けて白川は「北海道から移籍してきた自分を受け入れてくれたみんながいた。だから、僕個人のためではなくチームのために優勝したかった。みんなに感謝しています」と、メンバーを一人ひとり見渡し思いを綴りながら、深く頭を下げた。
昨年夏の予選大会でフリーダムがトップ通過を果たした後、渡邉翔太キャプテンはこのように語っていた。「いろいろな選手がいて幅広いのがフリーダム。選手もスタッフも全員が楽しめて、全員が出場して、全員でラグビーをして。その中で勝利を一つずつ積み上げていきたい」
日本選手権でフリーダムは、まさに渡邉の言葉通りの戦いぶりで優勝をつかみとった。“全員ラグビー”で予選を勝ち上がり、今大会最年長・60歳の和田将英から、昨年度に車いすラグビーを始めた森澤知央まで、全選手が決勝のコートでプレーした。
そして今大会で忘れてはならないのが、フリーダムと決勝で対戦し準優勝に輝いた東北ストーマーズ(東北・以下ストーマーズ)だ。2017年のチーム結成から5年。「5年で決勝の舞台に立つ」との目標を、チーム一丸となって見事に有言実行してみせた。
「東北に車いすラグビーの文化を根付かせたい。東北を元気にしたい」パラリンピアンである三阪洋行と庄子健が中心となり、チーム発足に向けて奔走する日々が続いた。そんな時に、今や日本代表の若きエースとして活躍する橋本勝也と出会った。
「ストーマーズは勝也とともに成長するチーム」結成1年目にして出場を果たした日本選手権で、三阪HCはそう語った。当時、中学3年生だった橋本に、勝利する喜びを味わってほしい。庄子も三阪も奮闘した。初出場のこの大会は最下位に終わったが、「手をつなぐ」を合言葉に、地道な努力を積み重ねてきた。代表を目指す人、チームで結果を残したい人、まずは競技を知りたいという人…、経験もモチベーションも違うメンバーが集まるなか、練習についていけず置いてきぼりにされている選手がいないか、みんなで声を掛け合いながら、手を取り合いながら、トレーニングに励んできた。そして、キャプテンの中町俊耶を慕い、若狭天太、横森史也がストーマーズで車いすラグビーを始めた。
「橋本勝也という原石と出会って、中町俊耶という逸材がうちのチームを選んでくれた。すごいスピードでチームが成長して、決勝の舞台に立てて光栄です。やってよかったなと思いますね」準決勝で最多優勝回数を誇る強豪チーム・ブリッツとの大接戦を制し、初の決勝進出を果たしたストーマーズ。三阪HCの目から涙があふれた。
決勝ではフリーダムに敗れ準優勝に終わったものの、全力で32分間を戦い抜いた橋本は、充実感に満ちた表情で語った。「悔しい気持ちはあるけど、すべて出し切って負けたので悔いはありません」
そして、ストーマーズの歴史とともにあった自身の5年間を振り返った。「ここまで来るのはすごく長かったです。ここに来られたのは三阪さんに車いすラグビーを勧めてもらい育ててもらったからです。今回、優勝に届きませんでしたが、コートにいるメンバーだけでなく、最後まで全員で戦うことができました。このチームに入れて最高です。またみんなで手をつないで、リベンジしたいと思います」
どのチームからも、チームへの思い、チームメート、チームスタッフへの強い思いが感じられる大会だった。止まっていた時計が動き出し、3年分の時間が、チームへの思いをより深くした。その思いが、日本全体のレベルをも引き上げる原動力になるだろう。
この大会でクラブチームのために戦った選手たちは、チームの枠を超え、今度は「日本代表」というワンチームとなって世界を相手に戦う。車いすラグビー日本代表は2/2(木)~2/5(日)、千葉ポートアリーナ(千葉市)で行われる「2023 ジャパンパラ車いすラグビー競技大会」に臨む。昨年の世界選手権で金メダルを獲得したオーストラリア、銀メダルのアメリカ、そして来年のパラリンピック開催国であるフランスを迎え、オールジャパンで挑む。
車いすラグビーの熱い戦いは、まだまだ続く。
【第24回車いすラグビー日本選手権大会 結果】
優勝:フリーダム(高知)
準優勝:東北ストーマーズ(東北)
3位:ブリッツ(東京)
4位:沖縄ハリケーン(沖縄)
5位:アックス(埼玉)
6位:福岡ダンデライオン(福岡)
7位:ライズ千葉(千葉)
8位:シルバーバックス(北海道)
【大会MVP】池透暢(フリーダム)
写真・ 文/張 理恵