パラアスリートと、パラスポーツを支えるヒト・モノ・コトについて迫るインタビュー連載「パラサポーターズ+!」。今回のゲストはフォトグラファー。WOWOWで放送されているパラリンピック・ドキュメンタリーシリーズ『WHO I AM』にて、選手たちのヴィジュアルを撮影している新田桂一さんに現場の裏話をうかがいます。
───3年前から撮影されているとのことですが、そもそものきっかけを教えてください。
新田桂一 アートディレクターの川上智也さんがテリー・リチャードソンを好きで調べていたとき、以前アシスタントをしていた僕のことを知り、オファーしてくれたんです。
───それまでパラスポーツ、パラアスリートとの関わりはありましたか。
新田 まったくありませんでした。お話をいただいたときも自分が撮影するイメージができませんでしたね。オファー自体はうれしかったものの、驚きはありました。5年間続くともうかがいましたし。
───戸惑いもあったんですね。
新田 でも、すぐにやらせていただきたいとお返事しました。最初の撮影は2016年2月のアムステルダム、マールー・ファン・ライン選手(陸上)でした。義足を見るのも初めてだったこともあり、よく覚えています。それから約3年、現在までに17カ国25選手分の撮影をしてきました。
───撮影のとき、現地にはどれくらい滞在されているんですか。
新田 1泊とか2泊のいわゆる弾丸、ブラジルもイランも1泊ですね(笑)。本編はドキュメンタリーの撮影ですが、スチール担当の僕はショートタイムでヴィジュアルを撮るんです。でも、すごく楽しませてもらっていますよ。
───撮影はテレビと一緒に行われるんですか。
新田 テレビは数日の撮影を何回かに分けていますが、僕は基本的にその前のタイミングで撮影をしています。
太田慎也(WOWOW『WHO I AM』チーフプロデューサー) 本編の撮影前に新田さんのハッピーオーラで選手を包み込んでもらうんですよ(笑)。
新田 そこで僕が何か失敗したら、そのままのムードでバトンタッチしなければならず、迷惑をかけることになるので、とにかく楽しんでもらえるよう心がけています。ハグして、ノリのいい音楽をかけて、日本に来たら遊ぼうねーって(笑)。
太田 それがすばらしいんです。新田さんのハッピーなスタイルのおかげで、「この撮影クルーはおもしろそうだな」って選手にも思ってもらえますから。
新田 番組本編はテレビ界のアカデミー賞ともいうべき国際エミー賞にノミネートされていたりするので、いつか写真のヴィジュアルでも賞を獲りたいと思っています。
太田 とはいえ、本編でも写真を使わせていただいていますから、そういった評価も新田さんを含めたみんなのものですけどね。
───これまでに印象に残っている選手を挙げていただけますと。
新田 それぞれなので、難しいですね。世界のトップアスリートはみんな、僕よりポジティブで、学ぶことがすごく多い。毎回全力で選手と向き合って撮影していますけど、それにも全力でぶつかってきてくれます。疲れた顔を見せるような人もいません。短いながらもすごく濃い時間で、終わったあとの乾杯は最高です(笑)。
───撮影自体はどれくらいの時間をかけているんですか。
新田 選手によりますが、2〜4時間くらいが多いですかね。競技に影響が出るようなことがあってはいけませんから、あまり無理に時間をかけることはできません。
───難しい撮影も多そうですね。
新田 そういう意味で印象に残るのは、ブラインドサッカーのリカルディーニョ選手。全盲の方で英語が通じず、ジェスチャーで伝えることもできず、写真を見てもらうわけにもいかないので、意思の疎通が難しくて。
太田 僕は、アーチェリーのザーラ・ネマティ選手の撮影が印象に残っています。オリンピックとパラリンピックを通じ、イラン人女性として初めて金メダルに輝いている方ですが、矢を放つ構えをしたときに正面近くから撮ることを許してくださって、すごくいい一枚を収められたんです。
新田 本来は矢の先から30°の角度に入ってはいけないと事前に言われていて。あれは僕もエキサイトしましたし、おかげで迫力のある写真が撮れました。すごく貴重な経験でしたね。
───ファッション撮影と違う点はどういったところでしょうか。
新田 自分の中ではそこまで意識をしてはいません。ただ、これまではずっと競技を中心に捉えていましたけど、これからはファッションっぽいものも撮れればと、アートディレクターの川上さんとは話しています。方向性が大きく変わることはありませんが。
───もともと撮り方についてのリクエストはあったんでしょうか。
新田 太田さん、お願いします(笑)。
太田 最初はそこまでイメージができていませんでしたね。番組でポスターヴィジュアルを作ることって実はそれほどなくて。でも、新田さんは白バックでストロボを当てて撮るスタイルでしたので、そのままでも選手の個性を上手に引き出してくださるんじゃないかという思いはありました。企画してくれた川上さんには、本当に感謝しています。
新田 ライティングは得意のクリップオン(ストロボ)ですね。というのも、国によっては照明の機材がないところもあるので。場所もスタジオではなく、体育館や会議室に背景となるペーパーを垂らして撮っています。
太田 世界中を回るとはいえ、白いペーパーならあるだろうと。
新田 でも、ボスニア・ヘルツェゴビナではペーパーさえも見つからず、現地のスタッフが必死になって探してくれた結果、現地のカメラマンが自宅に持っていたスタジオを借りることができて、どうにか撮影にこぎつけたということもありましたね。
───さて、1年半後には東京でパラリンピックが開催されます。撮影した選手との再会も楽しみですね。
新田 今度は自分がホストとして迎え入れることになります。実際に競技をするところも観たいんですけど、チケットが確保できるか心配で(笑)。子供にも見せたいし、会わせたいんですよね。本当に気取りのない魅力的な選手ばかりなので。
【プロフィール】
新田桂一さん
にった・けいいち●1975年生まれ、東京都出身。1997年に渡米し、世界的なフォトグラファーであるテリー・リチャードソン氏に師事。2006年帰国後、独立。2018年第49回講談社出版文化賞写真賞受賞。現在は日本を拠点に広告やファッション雑誌などで多方面に活動する。http://www.keiichi-nitta.com/ http://otaoffice.jp
IPC&WOWOW パラリンピック・ドキュメンタリーシリーズ『WHO I AM』 シーズン1、2の本編(全16番組)が無料配信中。くわしくは以下の公式ホームページまで。
https://www.wowow.co.jp/sports/whoiam/
新田さんが撮影した24名のパラアスリートの作品が展示される写真展、パラリンピック・ドキュメンタリーシリーズ『WHO IAM』【24 PARALYMPIC MEDALISTS】が2019年4月21日(日)まで開催中。平日は12:00〜22:00、土曜は11:00〜20:00、日曜・祝日は11:00〜19:00まで、NORA HAIR SALON(東京都港区南青山5-3-10 FROM-1ST BF)にて。
Photos:Teppei Hoshida Composition & Text:Yusuke Matsuyama