11月7日~15日の9日間にわたってUAEドバイで開催されたパラ陸上の世界選手権。各種目4位以内の日本人選手には、来年の大舞台への出場内定が与えられる中、日本選手団の先陣を切って登場したのが、佐々木真菜選手。400m(T13=視覚障がい)で4位に入賞し、世界最高峰の舞台への扉を開けた。佐々木選手に世界選手権での快走の要因、そして来年への思いを訊いた。
── 今回の世界選手権では4位入賞し、来年の出場内定おめでとうございます!
ありがとうございます。高校1年の時、2013年に開催が決定した瞬間から目指してきた舞台でもあるので、今回内定をいただけて本当に嬉しいです。
── 今年7月、世界選手権への最終選考会となったジャパンパラ陸上競技大会でアジア新となる自己ベスト58秒08をマーク。日本パラ陸上連盟が設定した世界選手権への派遣指定記録(58秒11)を見事クリアしました。
6月の日本選手権、7月の関東パラ陸上競技大会では記録突破には至らず、ラストチャンスとなったジャパンパラは「来年の大舞台に出るためには、必ずここを突破しなければならない」という強い気持ちで臨みました。当時の自己ベストは日本選手権で出した58秒34でしたので、派遣記録はとてもハードルの高いタイムでした。当日もとても緊張していたのですが、それでもスタートラインに立った時には「努力は裏切らない」と思い、練習してきたことを発揮すれば、必ず突破できると自分を信じてレースに臨むことができました。そういう強い気持ちが走りにもつながり、58秒08というタイムを出すことができたのだと思います。
── 400mという距離の中で、どのような部分に意識を置いて走っているのでしょうか?
まずは、スタートでの加速です。400mという種目では、最初の50mまでにしっかりとスピードを上げていかないといけません。ここでどれだけスピードに乗れるかで、後半につながる前半の勢いや、あるいは400m全体のタイムにも大きく影響してきます。そのスタートで最も意識しているのが、最初の5歩です。ここでしっかりと地面を踏み込んで反発力を受けると、「グングングングングン、グーン!」と加速していくことができるんです。そのスピードを維持したまま気持ちよく前半を走り、後半へとつなげていきます。200m、210mを過ぎたあたりからは、手と足のタイミングを合わせることだったり、後傾姿勢になるとロスが生まれるので前傾姿勢を保つようにすることを意識しながら走っています。
── 最後、ホームストレートでの100mは、気持ちの部分が大きいのでしょうか?
もちろん、メンタル面での粘りもすごく大事になってきます。それと、どの選手もそうだと思いますが、最後は疲れて足が動かなくなってくるんです。その動かなくなった足の分を、私は腕を大きく振ることでカバーして、しっかりと前に進んでいくことを意識しながら走っています。ジャパンパラではそういう部分がうまくいったからこそ、自己ベストを出すことができたのかなと思います。
「4年に一度の大舞台」の内定がかかった今回の世界選手権。大会初日に行われた400m、午前の予選を全体2位で通過した佐々木選手は、同日夜に行われた決勝で4位。今大会日本人内定第一号に輝いた。
── 世界選手権前、今シーズンの世界ランキングでは3位につけていました。どんな思いでレースに臨んだのでしょうか。
海外勢の中には、今シーズンまだ公式レースで走っていない選手もいましたので、世界ランキング通りにはいかないだろうと思っていました。「世界ランク3位」ということに惑わされず、とにかく自分の走りをしっかりとしようと。そうすれば必ず結果を出せる、という強い気持ちで臨みました。
── これまでは決勝での一発勝負でしたが、今大会はエントリー人数が多く、予選が行われました。実は佐々木選手にとって初めての予選だったそうですが、いかがでしたか。
正直、初めて予選を突破しなければいけないということで、コールルームではすごく緊張して、不安な気持ちもありました。でも、スタートラインに立った時には「今までやってきたことをやればいいだけだ」というふうに前向きな気持ちになれたので、落ち着いて走ることができました。午前10時前という暑い中でのレースでしたが、58秒65というまずまずのタイムを出すことができ、決勝に向けて大きな手応えを感じました。
── 約10時間後の夜8時、決勝に臨みました。隣のレーンの選手がフライングで一発退場というアクシデントもあった中でのスタートでしたが、58秒38で4位。ゴールした時の気持ちはいかがでしたか?
予選で初めてドバイの競技場を走った時に、少し硬めのトラックで地面からの反発を受けやすく、走りやすいという感触がありました。実際に予選からまずまずのタイムを出せて調子の良さを感じていましたので、「必ず57秒台を出す」という強い気持ちで決勝に臨みました。最初のスタートで「On your mark」「Set」で腰を上げた際に、後ろの方で「カシャン」という音が聞こえました。そしたらスタートが取りやめになったので、「誰かがフライングしたんだろうな」と。正直に言えば、少しだけ焦りというか動揺した部分もありましたが、いつものように深呼吸をして、すぐに気持ちを切り替えて再スタートに臨みました。ただ、予選の時のようにブロックを蹴った時にスピードに乗っていく感覚が少し足りませんでした。最初の1歩目が前にではなく少し上に飛び出す形になってしまって、接地がうまくいかず、地面を踏み込む力が弱かったんです。でも、その後はきちんと前半からスピードに乗って後半につなげることができました。最後のコーナーを回って直線に入った時に、私の前に3人いて、内側から私と並んで走っている選手がいるということはわかっていたので、少し焦りを感じていました。正直、ゴールをした時には自分の順位がわからなくて不安だったのですが、日本の報道の方から「内定、おめでとうございます!」と言われて、そこで初めて4位に入れたということがわかりました。ただ、「絶対に57秒台を出すんだ!」という強い気持ちで臨んでいただけに、タイムを聞いてすごく悔しい思いがこみ上げてきました。でも、内定をいただくことができたことに関しては、大きな自信にもなりましたし、これまで支えてきてくださった方々に良い報告ができたのかなと思えたので、素直に嬉しかったです。
佐々木選手にとって初めてとなる世界の大舞台まで、あと9か月。女子400m(T13)決勝は、9月5日に予定されている。4年に一度しか訪れない世界最高峰の戦いへの思いとは。
── 今回の悔しさを晴らす意味でも、来年の大舞台では57秒台が一つの目標になると思いますが、どういう部分を強化していこうと考えていますか?
まずは、スピードと持久力のさらなる強化が必要だと考えています。そのうえで、わずか一周で勝負が決まってしまうので、最初のスタートでの加速は絶対ですし、最後の100mでの粘り強さという部分でタイムも変わってくると思いますので、そこも磨いていきたいと思っています。あとは細かいところになりますが、疲れてくると、私は肩が上がり気味になって、手と足がバラバラになってしまうので、その部分も意識していきたいです。
── 現在、世界のどの位置にいると感じられていますか?
世界選手権の決勝を走ってみて、表彰台にはまだまだ遠いなと痛感しました。今回のメダリスト3人は全員57秒台なので、そこを目指していかなければいけないと強く感じました。残り9カ月で少しでも世界との差を縮めていけるように頑張ります。
── 最後に、来年の本番での目標を教えてください。
初出場なので緊張するとは思いますが、57秒台、56秒台の自己ベストを出してメダルを獲したいと思っています。そして、お世話になっている方々への恩返しとして、成長した姿を見せられるように、これからもコツコツと努力を積み重ねていきたいと思います。
PROFILE
ささき まな●サントリー チャレンジド・アスリート奨励金 第1〜5期対象
1997年9月2日生まれ、福島県福島市出身。先天性の弱視で中学・高校と福島県立盲学校に通い、卒業後に東邦銀行陸上競技部に加入。専門種目は400mと200m(ともに視覚障がいT13クラス)で、両種目の日本記録、アジア記録を保持している。2018年のアジアパラ競技大会で400mの金メダルを獲得。2019年パラ陸上世界選手権400mで4位入賞し、来年の大舞台の出場内定を決めた。
SUNTORY CHALLENGED SPORTS PROJECT
サントリー チャレンジド・スポーツ プロジェクト
www.suntory.co.jp/culture-sports/challengedsports/
Photos:Takao Ochi/KANPARA PRESS Composition&Text:Hisako Saito