――それぞれの競技の魅力、そしてお二人のストロングポイントを教えてください。
赤石 車いすバスケならではの魅力といえば、僕はコンタクトの激しさかなと思っています。バスケ車とバスケ車が激しくぶつかり合ったり、“押し上げ”といって少しでもゴールに近づけさせないために相手のバスケ車を押したりすることもしばしばです。ただラグビーのようにコンタクトプレーが許されているわけではないので、あまり激しくやってしまうとファウルになってしまいます。逆に言えば、ファウルにならないための細かなチェアスキルも重要で、激しさと緻密さが入り混じったおもしろさがあります。それと、車いすだからこそ味わえる疾走感というのもあると思っていて、それこそ僕自身、スピードを武器にしている選手でもあるので、そういうところは見ていても楽しんでもらえると思います。あと僕自身はあまりしませんが、障がいが軽いハイポインターの選手は片方の車輪を上げて高さを出す「ティルティング」という技もよくします。これも車いすバスケでしか見られません。「車いすでそんなことできるの?」と驚くようなプレーがたくさん見られるのが、車いすバスケの魅力です。
石田 僕はもともと健常の陸上をやっていて、現在も大学の陸上競技部に所属していて、大会にも出ています。その一方で、大学1年の時に左肩に骨肉腫ができて、障がいを負ったのをきっかけにパラリンピックを目指すようになりました。なので、健常の陸上もパラ陸上もどちらも経験しているのですが、同じ陸上でも一番大きく違うのは一つの種目の中でも、男女のほかに、さらに上肢障がいや下肢障がい、視覚障がい、知的障がいと、障がいの種類や程度によるクラス分けがあるということです。それぞれの選手によってさまざまな障がいがあって、競技への影響も人それぞれ。そういうハンディの部分も知ったうえで見ていただくと、記録だけでなく体の使い方の工夫など、おもしろい発見があると思います。僕のストロングポイントですが、400mって後半の200mがすごく辛いんです。足が回らなくなりますし、息切れもしてきますし。なので、前半にリードしていた選手がそのまま勝つとは限らなくて、後半から挽回した選手が逆転で勝つことも少なくありません。僕はその後半を得意としている選手なので、ぜひ注目して見てほしいなと思います。
――お二人は現役大学生ということで、競技と学問を両立しているわけですが、大学に進学して良かったなと思う点はどこにありますか?
石田 いろいろな学部だったり、出身地だったりの友だちとコミュニケーションが取れるというのも大学の魅力の一つだと思います。人それぞれいろんなタイプや考え、趣味があって、本当におもしろいです。あとは高校時代と一番違うのは、学生主体の自由が多いことかもしれませんね。その時間をどう過ごすのかは自分次第。友だちとおしゃべりするのもいいし、部活に入るのもいいし、バイトをするのもいいですしね。自由って一見楽そうに思えますが、意外と自分で決めなければいけないので大変です。でも、そういう時間の使い方も社会人になるうえで、とても大事だと思うので、大学はその予行練習ができる場でもあると思います。大学は勉強が大変と思う人もいるかもしれませんが、いろいろな可能性が育まれる場でもありますし、さまざまな出会いもあってとても楽しいのでおススメです。
赤石 僕は高校時代、大学に進学するかどうか悩みました。車いすバスケの先輩から競技との両立はとても大変だと聞いていたんです。でも石田選手が言ったように、ただ勉強をするだけの場ではなく、たくさんの友だちや先生とも出会えるチャンスでもあるんですよね。実際に入ってみて、人として成長できる場でもあるなと。それこそ初めて一人暮らしをしてみて、毎日、掃除、洗濯、食事の用意と大変さを知って、親のありがたみも感じています。ただ、やっぱり簡単ではないです。月に一度、合宿や遠征がある中で、公欠した授業の分のレポートを徹夜でやったりと、あまりのしんどさに「大学に行って正解だったのかな」と思ったこともありました。でもそういうことを乗り越えたからこそ、成長できた部分もあったと思います。ずっとアスリートでいられるわけではなく、その後の人生の方が長い。そう考えても、人として成長できるという意味でも大学に行くことは大きな意味があると思います。
――いろいろとお話をお伺いしてきましたが、今回初めてお話をしてみて、お互いの印象はいかがですか?
石田 この対談に臨むにあたって、事前にネットで赤石選手の写真を見たりしていたんですけど、忍耐力のある選手なのかなという印象がありました。実際に今、インタビューを聞いていても、どんな質問に対してもハキハキと自分の考えを答えているところを見て、やっぱりそうなんだろうなと。競技に対しても、言われたことをしっかりとやるだけでなく、自分で率先してやる選手なんだろうなと感じられたので、東京パラリンピックでの活躍も期待したいなと思いました。
赤石 ありがとうございます。目の前にして言われると、ちょっと恥ずかしいですが(笑)。忍耐力があるというふうに言われるのは、とても嬉しいですね。でも、実は僕、嫌なことがあるとすぐに投げ出しそうになるんです(笑)。それでもなんとか続けていくような感じなんですけど、石田さんに言ってもらったたように「忍耐力のある選手」になれるように頑張りたいと思います。石田さんはすごく口調もやわらかくて、話しやすい方だなという印象です。実を言うとめちゃくちゃ緊張していたんですけど、最初に「ため口でいいよ」と言ってもらって、すごく安心しました。
写真/越智貴雄[カンパラプレス] 取材・文/斎藤寿子