いよいよ始まる東京2020パラリンピック。障がいの種類や程度に応じたクラス分けやルールの変更、道具の工夫など、パラスポーツならではの見どころを事前に知れば、パラリンピック観戦がより楽しくなるはず。今回は、そんな「豆知識」を前後編でご紹介。まずはオリンピックにはないパラオリジナル競技、東京大会で初採用の競技、そしてパラスポーツ独自のルールを覗いてみよう!
■パラオリジナルの競技
<ボッチャ>
ボッチャは、重度脳性麻痺者あるいは同程度の四肢重度機能障がい者のためにヨーロッパで考案された対戦型のスポーツ。ジャックボール(目標球)と呼ばれる白いボールに、赤・青それぞれ6球ずつボールを投げたり、転がしたりして、いかに近づけるかを競う。男女の区別はなく、障がいの程度によりBC1~BC4の4つのクラスに分かれている。個人戦のほか、選手2人ずつで組むペア戦、選手3人で組むチーム戦がある。
ボッチャは障がいによりボールを投げることができない選手は、ランプと呼ばれる勾配具を使い、介助者(競技アシスタント)に指示を出してプレーする
ボッチャは、緻密な戦術を駆使する“超頭脳戦”のスポーツと言われる。相手のボールを弾き飛ばしたり、ジャックボールの手前に置いて自分に優位な位置取りをしたりと、多彩な駆け引きが繰り広げられ、「地上のカーリング」とも呼ばれるが、ジャックボールそのものも自分のボールを当てて移動させることができるのが違いだ。展開の数手先を読む冷静な試合分析とミリ単位の正確無比なコントロールで、いかに自分が得意とする戦いに持ち込むか。ボッチャ日本代表「火ノ玉JAPAN」の熱い戦いに注目だ。なお、前回のリオ大会ではチーム戦で銀メダルを獲得している。
<ゴールボール>
ゴールボールは、視覚に障がいがある選手がアイシェード(目隠し)を着用し、鈴が入ったボールを互いに転がし合い、得点を競う対戦型チームスポーツ。試合は男女別で行われる。1チーム3人で構成し、バレーボールと同じ広さのコートを使用し、12分ハーフの計24分間で得点が多いチームが勝ちとなる。コート内のラインはテープの下に糸が通されており、選手はその凹凸を手や足で触って自分の位置を確認している。
ゴールボールは守備では相手が投げたボールを横っ飛びで阻止。高い集中力で足音やボールの鈴の音など、さまざまな音の情報をサーチし、ゴールを守る
「見えない」選手がコート上で頼りにするのが「聴覚」だ。味方とは声をかけ合ったり、手や床を叩いたりしてコミュニケーションを取る。守備をする際は、対戦相手の足の音や、転がるボールの鈴の音で軌道をサーチし、ゴールを守る。選手は集中力を研ぎ澄ませて戦っているため、試合中に審判が「Quiet please(お静かに)」とコールをした後は、会場にいる観戦者は声援を送ってはいけない。
男子日本代表は東京大会が初出場、女子日本代表はロンドン大会で金メダルを獲得している。
■東京大会で初採用の2競技
<パラバドミントン>
現在、世界70カ国で親しまれている人気スポーツのひとつ。とくにアジアを中心に盛んで、日本代表も複数の選手が世界ランキング上位に位置しており、メダル候補として注目を集めている。車いすと立位のカテゴリーがあり、障がいの種類と程度により計6つのクラスに分かれる。シングルスは男女別、クラス別で頂点を争う。クラスごとに使用するコートの面積が変わり、それぞれ戦略も異なるが、一般と同様に白熱したラリーの応酬と駆け引きが最大の見どころだ。男女ダブルスとミックスダブルスは、車いす同士、立位同士が、クラス合計が規定ポイント内に収まるようにペアを組む。
クラスごとに使用コートが異なる分、戦術も多彩なパラバドミントン。初代パラリンピックチャンピオンになるのはどの選手、どのペアか⁉
<パラテコンドー>
2009年に初めて世界選手権が開催されるなど、パラスポーツでは比較的新しい競技。パラリンピックでは「キョルギ」と呼ばれる組手が実施され、腕や手に障がいがある選手が出場する。男女それぞれ体重別に3階級あり、さらに障がいの程度によって分けられたクラスごとに順位を争う。胴部への足技だけが有効な攻撃。突き技は無効で、頭部への蹴りが禁止されている点がパラテコンドー特有のルールだ。また、蹴り技によって2点から4点まで獲得できるポイントが異なるため、残り1秒でも一発逆転を狙うことができる。日本からは女子1人、男子2人の3選手が出場する。
■ほかにもある、こんな独自のルールや工夫
柔道は視覚障がいの選手による競技。最初から組んだ状態で開始するのが特徴だ。組み手争いがないため、序盤から技の掛け合いが展開される。その分、体力の消耗が激しいが、残り1秒で大逆転することも可能で、最後まで目が離せない。水泳の視覚障がいクラスでは、泳いできた選手の頭や身体の一部を「タッピング棒」で触れ、ターンやゴールのタイミングを知らせる「タッパー」の存在が欠かせない。選手とタッパーの連携に注目だ。
水泳の視覚障がいクラスに欠かせない「タッパー」の存在。選手とタッパーの間でもっとも大事なのは、信頼関係の構築だという
車いすテニスは「2バウンドまで」の返球が可能。トップクラスは、俊敏なチェアワークでボールに追いつき、1バウンドで返球する選手も多い。車いすバスケットボールは、ダブルドリブルの反則はない。ただし、ボールを保持したまま車いすを3回続けて漕ぐとトラベリングになる。アーチェリーでは、障がいに応じて脚で弓を持ったり、口で弦を引いたりすることなどが認められている。卓球でも、上肢欠損のため口でラケットを咥えてプレーする選手もいる。
ここに挙げたのは一例だが、こうしたルールや選手独自の工夫を知ればもっと楽しくなる奥が深い世界だ。パラリンピックではその多様性に注目してみよう。
荒木美晴●文 text by Miharu Araki 植原義晴●写真 photo by Yoshiharu Uehara