東京2020パラリンピックの新競技、パラバドミントンで日本代表が躍動した。大会後半の9月1日に初日を迎え、最終日までの5日間で金メダル3、銀メダル1、銅メダル5個を獲得。採用決定から競技環境の整備と強化に力を入れてきた成果が発揮され、日本の強さを世界に発信した。
ダブルスでも金メダルを獲得した里見紗李奈とペアを組んでいる山崎悠麻
パラバドミントンの関係者にとって、パラリンピック競技に採用されることは長年の目標だった。大会が始まり、パラリンピックの運営には多くの人が携わり、サポートしていることを改めて知ることとなり、選手は感謝の気持ちを述べるとともに、歴史的なスタートの舞台に立てたことを「誇りに思う」と口をそろえた。
金メダル第1号は、女子車いすWH1の里見紗李奈(NTT都市開発)。シングルス準決勝では、予選で敗れた尹夢璐(中国)をストレートで下してリベンジを果たす。決勝では、実力者のスジラット・ポッカム(タイ)と対戦。序盤はショットが甘く入り、ポッカムに先行を許して第1ゲームを落としてしまう。第2ゲームも9連続失点で逆転されるが、「がむしゃらに、泥臭くやっていこう」と切り替えて、ゲームカウント1-1に戻した。ファイナルゲームはその流れをキープ。最後まで粘りのプレーでポイントを重ね、初代女王に輝いた。
現世界1位(里見)と元世界1位(ポッカム)の戦い。「コーチから、2人の実力はほぼ同じ。ここまで来たら『勝ちたいという気持ちが強いほうが勝つんだよ』と言われて、その通りだと思った。自分で声出しをして、気持ちを盛り上げてからは、プレーがよくなっていった」と振り返る。
相手のポッカムは、里見が2017年に競技を始めた時からトップで活躍する憧れの選手。2019年の世界選手権決勝で初めて里見に黒星を喫している。普段は気持ちの抑揚をあまり前に出さないタイプだが、この日は異なり、大きな声を出して自分を鼓舞。その姿を見て、里見は「私のことを意識しているのかなと思うと、すごくうれしかった」と受け止めた。
里見は競技最終日の5日には、山崎悠麻(NTT都市開発)と組む女子ダブルスでも中国ペアとのフルゲームの試合を制して、金メダルを獲得。二冠を達成した。「シングルスで優勝したのもあって、さらに強い気持ちで臨めた。2種目で初代女王を目標にしてきたから、自信になる」と笑顔をのぞかせた。
また、山崎も障害が重く狙われる里見を積極的にカバー。ラウンドショットで身体をのけぞらせて返球したあと、車いすをすばやく一回転させてフォーメーションを立て直すスーパープレーを披露。練習では「サイクロン」と名づけたこの技で、ぐっと流れを引き寄せた。
女子WH2シングルスで銅メダルだった山崎は、「表彰台の真ん中に立てたことがうれしい」と、金メダルを触りながら優勝の喜びをかみしめた。
男子車いすWH2シングルスは、19歳の梶原大暉(日体大)が決勝の舞台で強心臓を見せた。対戦相手は世界ランク1位でトップに君臨し続けるキム・ジョンジュン(韓国)。一度も勝ったことがない強敵を前に、梶原は「僕はチャレンジャー。失うものは何もないし、楽しもう」と決め、序盤から食らいついていった。
第1ゲームは梶原が最大7点差をつけてリードするが、中盤から試合巧者のキムにラリーに持ち込まれ、ミスを誘われ7連続失点で逆転を許す。しかし、梶原は焦ることなく絶妙なコントロールショットでキムを揺さぶり、最後は梶原が21-18で先取した。第2ゲームも手に汗握る駆け引きが展開され、一進一退の攻防が続くが、粘る相手を振り切り21-19で勝利した。
動きにスピードのあるキムの動画を観て、彼のチェアワークに注目していたという梶原。シャトルを打った後に手で車いすのタイヤを持つ速さが断トツだったといい、見習ってチェアワークを磨いてきた。決勝ではその成果が十分に発揮され、金星につながった。
男子ダブルスでは村山浩(WH1/SMBCグリーンサービス)とペアを組み、攻める姿勢を貫いて銅メダルを獲得。梶原は「パリではダブルスでも金メダルを獲りたい。シングルスは二連覇を目指す」と力強く話した。
鈴木亜弥子(七十七銀行)は女子立位SU5シングルスで銀メダル、伊藤則子(立位SL3/中日新聞社)と組んだ女子ダブルスで銅メダルを獲得した。鈴木は東京パラリンピックの開催が決まったことで、2015年に現役復帰。今大会はシングルスでライバルの楊秋霞(中国)に敗れ、目標の金メダルは手にできなかったが、「練習でも大会でもすべてを出し切った。悔いはない」として、引退を表明した。また、杉野明子(ヤフー)は女子立位SU5シングルスと、藤原大輔(立位SL3/ダイハツ)と組んだミックスダブルスでそれぞれ銅メダルを手にした。
次回パリ大会の開催は、3年後に迫っている。日本のパラバドミントン界としては、今回の好成績を競技人口の底上げと普及につなげたいところだ。千葉県でパラバドミントンのクラブチームの代表を務め、選手の育成にも力を注ぐ村山は、「日本はまだまだ競技人口が少ない。今大会は私たちの姿を通してパラバドミントンを世の中の人に知ってもらい、僕もやりたい、私もやりたいとなればいいと考えていた。今回、活躍できたのはよかった」と話し、山崎は「誰かがケガをしてスポーツに取り組みたいと思ったときに、最初にパラバドミントンをやってみようと思ってもらえる世界にしていきたい」と想いを語る。
梶原も「もっと競技人口が増えてほしい。とくに若い人は若い選手がいないと始めにくいと思うので、僕がこれからも継続して結果を残していきたいし、普及活動にも取り組んでいきたい」と話し、前を向いた。
*本記事はweb Sportivaの掲載記事バックナンバーを配信したものです。
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荒木美晴●取材・文 text by Araki Miharu 植原義晴●写真 photo by Uehara Yoshiharu