東京パラリンピックに向け様々な競技やアスリートの魅力に迫る、MEN’S NON-NOの連載「2020年TOKYOへの道」。今回は、トラック&マラソンの“二刀流”でスピードを追い求める車いすスプリンターが登場。激動の2020年、彼が得たさらなる飛躍への糧とは?
数あるパラ陸上競技の中でもとりわけ観る者を圧倒するスピード感を備えているのが車いす種目だ。なにしろ42.195㎞を走るマラソンでも1時間台でゴールしてしまうのだから。鈴木朋樹はそのマラソン(T54クラス)で東京パラリンピック出場が内定し、800m、1500mなどのトラック種目でも出場をめざしている日本屈指の車いすスプリンターだ。
「マラソンでは常時30〜35㎞/h、下り坂なら80㎞/hくらい出ることもあります。そのスピード感はツール・ド・フランスのような自転車競技に近く、ゆえにフィジカルや技術以外に車いすの整備などメカニック的側面も重要になってきます。またマラソンとトラックに挑戦するのは自分としてはそれほど特別なことではなく、世界ではスタンダードになってきていますし、バンッと瞬時にトップスピードにのせる加速力がものをいう点で両方共通しているのでそれほど練習の違いもないんです」
しかしながら、2020年のコロナ禍とパラリンピック延期は、他の多くのアスリート同様に彼にとっても大きな分岐点になったという。
「延期が決まった当初は残念に思う気持ちが強く、2か月練習できない期間もありました。しかしその分、体力と技術を一度ゼロベースから見直してさらに向上できるとプラスにとらえ、2021年に最高の走りを発揮できるよう準備しようと。それに自粛期間を機にキャンプという新しい趣味を得て自然の雄大さに触れられたこともメンタル面で大きかったですね」
世界で勝つために走り続ける。不変の志の裏にはこんな思いがある。
「パラリンピックは今まで支えてくれたすべての人たちへの感謝を表す舞台。だから『あいつが頑張っているんだから俺も頑張ろう』って思ってもらえるような走りを見せたいです。その気持ちは東京パラまでではなく、その後のパリ、ロサンゼルスまでしっかり持ち続けたいですね」
【プロフィール】
鈴木朋樹さん
すずき・ともき●1994年6月14日生まれ、千葉県出身。生後8か月の頃に交通事故で脊髄を損傷し、中学から本格的に陸上の車いす競技を開始。そしてトラックレースを軸にキャリアを重ねながら近年はマラソンでも頭角を現し、2019年のロンドンマラソンで3位に入り、東京パラリンピックの日本代表に内定。現在は800m、1500mとトラック種目での出場権獲得もめざしている。トヨタ自動車所属。趣味はキャンプ。
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Composition & Text:Kai Tokuhara 写真提供/ミネベアミツミ