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2021.06.05 車いすテニス
『パラ・スター』著者・阿部暁子×車いすテニス・大谷桃子 対談(前編)

作家が車いすテニス選手と対談して知ったリアル。書く前に聞きたかった!

阿部暁子さん(左)と車いすテニスプレーヤーの大谷桃子選手(右)がオンラインで対談

 

車いすメーカーの新米エンジニア・山路百花と、車いすテニスプレーヤー・君島宝良。親友ふたりの葛藤と成長をそれぞれのパートで描く物語『パラ・スター』。「本の雑誌が選ぶ2020年度文庫ベストテン」で第1位に輝いた話題作だ。今回、著者の阿部暁子さんと、女子車いすテニスシングルス世界ランキング5位(6月4日現在)の大谷桃子選手のオンライン対談が実現。前編では、制作秘話や大谷選手が共感したシーン、作中に登場するエンジニアと選手のリアルな関係などについてトークが展開された。

 

■「車いすに種類があるの!?」から始まった物語

 

――本日はよろしくお願いします。『パラ・スター』はの2部構成で、それぞれ車いすテニスに関わる人たちの揺れ動く心情や覚悟が繊細に描写されています。阿部さんが車いすテニスを題材に作品を作ろうと思ったきっかけは何ですか?

 

阿部 東京2020オリンピック・パラリンピックの開催が決まった時に、パラスポーツを題材にしたいなあと思ったのが最初のきっかけです。たまたま地元で開催されたイベントでパラ陸上の元選手の講演を聴く機会があって、その中で陸上は「レーサー」、車いすテニスも、車いすバスケットボールも、それぞれ専用の車いすを使っていることを初めて知りました。

 

恥ずかしながら「車いすに種類があるの?」から出発して、競技を調べていくうちに、私はテニスが好きだったこともあって車いすテニスに行きつきました。YouTubeで観たロンドンパラリンピック男子シングルス決勝の国枝慎吾選手とステファン・ウデ選手の名勝負にも感動して、どんどんのめりこんでいきました。

 

――実際に車いすテニスを観戦したことはありますか?

 

阿部 作品づくりのために、2019年のジャパンオープンを取材しました。私、大谷選手のファンで、現場でも遠くから姿を観ていました。なので、今日こうしてお話できることに感動しています。

 

大谷 ありがとうございます。すごくうれしいです。

 

■悲しい心の叫び「あんなの、テニスじゃない……」

 

――ヒロインのひとり、宝良は交通事故で車いす生活になり、さまざまな葛藤を乗り越えて車いすテニスプレーヤーとして活躍していきます。大谷選手もインターハイ出場を経験し、その後車いすテニスプレーヤーに転向されたわけですが、読まれた感想はいかがですか?

 

大谷 宝良ちゃんがあまりにも自分と重なる部分が多くて、もう涙、涙で読ませていただきました。テニス選手だった宝良ちゃんが事故で脊髄損傷になって車いすテニスを初めて観た時に、「あんなの、テニスじゃない」って思ったシーンがありましたよね。私は病気で障がいを負いましたが、それは私も実際に感じたことでした。自分も体験会に参加したあと、すぐに車いすテニスをやろうと思えなかったのは、自分が知っているテニスと違うと思ってしまったからなんです。そこがすごくリアルで、泣けてしょうがなかったです。

 

阿部 実は書く時も、書き終わってからも、ずっと怖いと思っていたんです。何が怖いかって、自分の捉え方が間違っていないか、無神経なんじゃないか、本当は何もわかってなくて書いているんじゃないかって……。踏み込んだ内容なので、ずっと心に残っていて。なので、今そう言っていただけて私も胸がいっぱいです。

 

大谷 私もテニスを小学生で始めて、高校ではインターハイに出場して、そのあと裏方に回ろうと思ってトレーナーを目指しながら、テニスクラブでアシスタントコーチとかをやっていました。でも、そのアシスタントコーチを始めた数カ月後に病気で車いすになって、テニスを離れることになって……。テニスだけの人生を過ごしてきたから、テニスがなくなって、本当に何をしたらいいのかわからなくなってしまった。それが原因で引きこもった時期もありました。作品を読んでいて、自分そのものだなって思っていました。

 

『パラ・スター』の著者・阿部暁子さん

 

――阿部さんは、そのシーンをどういうふうに作っていったか覚えていますか?

 

阿部 私、根っからの文化系でスポーツの経験がまったくないんですよ。ただ、自分にとっての小説が、たぶん宝良にとってのテニスなんだろうなと考えました。私には小説しかなくて、もし小説を書けなくなるとしたら、きっと物を考えられなくなるということだろうなと。その時に、周囲の人に「代わりにこういうのもあるよ」と言われても、「そうじゃないんだよ」ってすんなりいかないだろうという気持ちがあったので、その通りに書きましたね。

 

大谷 私、〈Side 百花〉にある宝良ちゃんの『それができないならもう何もいらない。代用品なんか私はほしくない。こんな身体も人生もいらない。テニスができないなら何の意味も価値もないから』という言葉のところに、付箋を貼っているんです。車いす生活になって、すごく悲観的になって、このセリフをそっくり母に言っていて。八つ当たりしてしまったんです。母もやっぱりショックを受けていましたし……。あぁ、今でも泣けちゃうな。それが本当に申し訳なかったなと思うし、今は車いすテニスを頑張って結果を残すことが、その時の償いになるのかなと思っていて。辛いときはそれを考えるようにしています。

 

阿部 あぁ、私も泣きそうです。

 

■選手と一心同体・エンジニアの存在

 

――作中ではサポートする人たち、とくに選手を支える車いすメーカーのエンジニアの存在が興味深かったです。阿部さんがエンジニア側にも焦点を当てた理由を聞かせてください。

 

阿部 先ほど言ったように、「競技ごとの車いすを作っている人がいるのか。すごいな」というところからスタートした作品で。最初は車いすを作る人だけを書く可能性もありました。でも、車いすテニスを正しく知ってもらうためには、車いすを作っている人、そして車いすテニスに励んでいる選手を両方書いて初めてちゃんとわかってもらえるのでは、という感触があって。それでこのような形の話になりました。

 

――大谷選手とエンジニアの方々の関係はどんな感じですか?

 

大谷 私はなんでも言わせてもらっています。それこそ自分が遠慮して、「車いすのここをこうしたい」という希望を言わず、それで結果が出なければもっと申し訳ないことになってしまうので……。とはいえ、1年目とかは担当の方のことも、自分の体のこともまだ理解していなくて、「どこまで言っていいのかな」というのがありました。ちゃんと言えるようになったのは2年くらい前かな。それまでは与えられたものに乗る、という感覚のほうが強かったかもしれないです。

 

阿部 車いすは体の一部だから、状態を伝えるのって難しいですよね。

 

昨年、グランドスラム初出場の全米OPに続いて全仏OPにも出場した大谷桃子選手 photo by PRESSE SPORTS /AFLO

 

大谷 難しいですね。車いすの構造をきちんと理解している選手は「ここを数ミリ長くしたほうがいいんじゃないか」って言えるんですが、私は今でもまだ「うまく回らないんだけど」とか「腰で押しているんだけど全然ついてこない」という感覚的な言い方になってしまいます。エンジニアさんはその感覚をくみ取って対応してくださるので、本当に有難いですね。作中でもそのあたりのやりとりが描写されていてリアルだなと思っていました。

 

阿部 私は執筆にあたって、車いすメーカー・オーエックスエンジニアリングさんの本社にお邪魔して、営業担当の安大輔さんに話を伺いました。「一番大事なことって何ですか」って聞いたら、「どこまで懐に入れるか、ですかね」っておっしゃっていました。それを私の頭のなかで独自解釈したセリフにして、作中でエンジニアの小田切にしゃべらせたりしましたね(笑)。

 

あと、『パラ・スター』の〈Side 宝良〉で、試合中に車いすが故障して、スタッフが来て直すというシーンがあるんですが、取材したジャパンオープンでそれが本当に目の前で起こったんですよ。安さんがバッグを担いで走ってコートに入ってきた。あの緊迫の場面で、何がどうなっているかもわからない状態で、瞬時に車いすの状態を見て、どうにかして試合を再開させたというのがすごく印象的でした。

 

――大谷選手は実際に試合中に車いすが壊れたことはありますか?

 

大谷 あります。パンクが1回で、あと腰の樹脂系ベルトが根元から折れちゃってエンジニアさんを呼んだことがあります。その場でスペアに付け替えてもらい、しのぎました。

 

阿部 ベルトって切れるんですか? 書く前に聞きたかった(笑)! ジャパンオープンで会場のリペアのところにも行きましたが、現場であんまり話かけると邪魔しちゃいそうなので、作業テント前を何回も通り過ぎながらチラ見して、ぐるぐる回って写真を撮って、すごい不審者だったと思います(笑)。車いすの調整を依頼する人、ただおしゃべりをして帰っていく人もいて、興味深かったです。

 

大谷 リペアのテントに来る7割は、お話がしたい人です(笑)。私は人使いが荒いので、何かあるとすぐエンジニアさんを連絡して、「いついつに来てください」ってお願いすることもあります(笑)。

 

阿部 そういう呼び出しもあるんですね! それも書きたかったな。エンジニアさんに話を聞いていると、とことん自分の力を尽くして、最高の状態にして「あげたい」、じゃなくて、「するのが自分の役目です!」みたいなかっこいい職人魂を持って働いているので、きっと選手にははっきり言ってもらったほうが嬉しいんじゃないかなって勝手ながら思います。

 

(後編につづく>>)

 

Profile
阿部暁子(あべ あきこ)

岩手県出身、在住。2008年『いつまでも』でロマン大賞を受賞し、デビュー。著書には、『室町少年草子 獅子と暗躍の皇子』『戦国恋歌 眠れる覇王』『鎌倉香房メモリーズ』シリーズ、『どこよりも遠い場所にいる君へ』『また君と出会う未来のために』がある。

 

大谷桃子(おおたに ももこ)
1995年8月24日生まれ、栃木県出身。小学3年生からテニスを始め、高校ではインターハイに出場。2016年からは車いすテニスに転向し、2020年には初めてのグランドスラムとなる全米オープンに出場。続く全仏オープンでは女子シングルス決勝に進出した。今年の全豪オープンはベスト4。東京2020パラリンピック出場を目指している。

 

 

『パラ・スター』
阿部暁子・著 集英社文庫
〈Side 百花〉(左)¥638
〈Side 宝良〉(右)¥704

車いすメーカーで働く百花の夢は、親友で車いすテニス選手の宝良のために最高の競技用車いすを作ること。高校2年の時、交通事故で脊髄損傷し、車いすでの生活を余儀なくされた宝良を救ったのは、百花が勧めた車いすテニスだった。宝良が日本代表チームに選出され華々しく活躍しているのに対して、新米エンジニアの自分に焦りを感じている百花だが……。少女たちの奮闘を描く、青春スポーツ小説!

 


【web集英社文庫『パラ・スター』】

http://bunko.shueisha.co.jp/parastar/

荒木美晴●構成・文  text by Araki Miharu

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