トラック&マラソンの“二刀流”で観る者を魅了する鈴木朋樹(左)
鈴木、100mで培ったスタートの加速力を発揮
19年4月、日本パラ陸上界で東京パラリンピックの内定第一号となったのが、車いすランナーの鈴木朋樹(T54)。19年世界マラソンで3位に入り、自身初となる世界最高峰の大会への切符を獲得した。マラソンランナーとして高い注目を得ている鈴木だが、本人がメインとしているのはトラック競技の800m、1500m。なかでも日本記録を持つ800mには大きなこだわりを持っている。
課題としてきたことの一つが、スタートから50mまでの加速力だ。今シーズン最初のレースだった3月の日本選手権では100mにもエントリーし、磨いてきた短距離での走りを確認。専門外にもかかわらず予選を全体の2位で通過すると、決勝では短距離を得意としているランナーたちを破って優勝し、大きな手応えを感じていた。
そして東京パラリンピックまで国内では最後のレースとなった今回のジャパンパラで満を持して出場した800mで、「最低目標」としていた大会新記録となる1分35秒74で優勝。2位に約3秒差をつけての完勝だった。
スタートからの加速で、鈴木は他を圧倒していた。号砲とともに全員が車いすを漕ぎ始めていくなか、鈴木は誰よりも早く1プッシュ目から2プッシュ目に入っていたのだ。そのためスタート直後から後続との差は開き、バックストレートでは独走状態となっていた。このスタートでの加速力について、鈴木はこう答えている。
「もちろん漕ぐ数も重要ですが、その1回1回できちんと力を伝えることが静止した状態からの加速では大事。あとは体幹をしっかりと固定した状態で保つということを意識していました。これまでずっと100mにも出場して培った強さが、今回の800mで発揮することができたと思います」
前日の1500mとあわせて二冠を達成し、東京パラリンピックへの弾みとした鈴木。今後は休養をはさみ、5月からはピークの状態で本番を迎えられるように調整していく予定だという。鈴木がよく口にする“世界のモンスターたち”との勝負は、もうすぐだ。
写真/(株)つなひろワールド 取材・文/斎藤寿子